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中国昔話『正直者』

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ところが、アナニヤという人は、妻のサッピラとともにその持ち物を売り、妻も承知のうえで、その代金の一部を残しておき、ある部分を持って来て、使徒たちの足もとに置いた。

そこで、ペテロがこう言った。
「アナニヤ。
どうしてあなたはサタンに心を奪われ、聖霊を欺いて、地所の代金の一部を自分のために残しておいたのか。
それはもともとあなたのものであり、売ってからもあなたの自由になったのではないか。
なぜこのようなことをたくらんだのか。
あなたは人を欺いたのではなく、神を欺いたのだ。」

アナニヤはこのことばを聞くと、倒れて息が絶えた。
そして、これを聞いたすべての人に、非常な恐れが生じた。
青年たちは立って、彼を包み、運び出して葬った。
三時間ほどたって、彼の妻はこの出来事を知らずに入って来た。
ペテロは彼女にこう言った。
「あなたがたは地所をこの値段で売ったのですか。
私に言いなさい。」
彼女は「はい。その値段です」と言った。
そこで、ペテロは彼女に言った。
「どうしてあなたがたは心を合わせて、主の御霊を試みたのですか。
見なさい、あなたの夫を葬った者たちが、戸口に来ていて、あなたをも運び出します。」
すると彼女は、たちまちペテロの足もとに倒れ、息が絶えた。
入って来た青年たちは、彼女が死んだのを見て、運び出し、夫のそばに葬った。
そして、教会全体と、このことを聞いたすべての人たちとに、非常な恐れが生じた。

新約聖書『使徒の働き』第5章1〜11節──新改訳聖書第3版より引用

神を欺いた結末を描いたこの聖書個所を、先日、中国国際放送(旧称・北京放送)の日本向け日本語放送の「中国昔話」を聞いていて、思い起こしました。

私自身、この昔話にいたく感動したので、同局のHPから原稿を引用させていただきます。

皆さんもきっと、「ええ話やなぁ〜」と感動してくださると確信します。

 「正直者」  (屈丐者)

 蘇州の郊外に楓橋鎮という大きな市場があり、その近くの古いお寺に物乞いをして日々をしのいでいる屈さんが寝起きしていた。屈さんは寺で寝る以外は食っていくために朝早く出かけ、夜遅く寺に戻っていた。しかし、足が悪いので遠くへは行けず、いつも楓橋鎮のいくつかのところに座って道行く人から物をもらっていた。

 と、ある日、早起きした屈さんは、今日はいつもと違ったところに行ってみようと思い、悪い足を引っ張りながら寺を出たが、なんと寺の前の道端になにか落ちているのを見つけた。

 「なんだ?こんなところに?」と屈さんが拾ってみると、それは緑色の財布で、手で振ってみるとじゃりじゃりという音がする。そこで開けてみたが、なんと銀貨が二百枚以上も入っていた。

 「うへ!金持ちは誰だい?こんな大金を捨てるとはあきれたね。おいらには一生かかってもこんな大金は手に入らないよ。そうだ!これはここを通りかかった人が落としたに違いない。おいらは貧乏人だから、大金とは縁がないんだ。それに大金だから落とした人はきっと慌ててる違いない。もしかしたら人の命にかかわることかもしれないからな」

 正直者の屈さんはここまで考えると、その財布を持って寺に戻り、この日は出かけるのはあきらめ、この大変な落し物の持ち主が現れるのを待つことした。

 こうしてその日も昼ごろになり、朝から何も口にしていない屈さんが、腹が減ったのを我慢して待っていると、一人の商人らしい男がそわそわとなにかを探しているように下を見ながら急ぎ足でやってくるではないか。そして顔を顰め、時にはその場で自分の胸を叩いたり、頭をなぐったりして悔しがっていた。そこで屈さんは、ははあ!財布を落としたのはこの商人だなと思ってその男に声をかけた。

 「そこのお人!そこのお人!」

 これに商人はいくらか驚いた様子でこっちを見た。すると一人の物乞いが近くの寺の門のところで自分を呼んでいるではないか。何で物乞いが声をかけたのかと不審に思ったが、もしかしてと思い、急に顔をほころばせて屈さんの側に来た。

 「なんだい?」

 「あんた、なにかを探しているみたいだね」

 「おお!よく知ってるね。もしかしたらあんたが拾ってくれたのでは?」

 「ということは、あんた、なにかを落としたんだね?」

 「実、実は、大金の入った財布を落としてしまったんだよ」

 「財布ね?」

 「そう!財布だ!」

 「どんな財布だね?」

 「緑の財布だ」

 「うん、で、中にどれだけ金が入っていたんだね」

 「実は、中には今年一年の儲けの銀二百枚あまりを入れておいたんだが!その金を、私が商いするための元金を貸してくれた恩人に返しに行くところだったんだよ。あんたが拾ってくれたのかい?」

 「はは!これはいいや。やっぱりあの財布はあんたのだったんだね」

 「そうそう、私の財布だよ」

 「待っててくれ。いまとってくるから」と屈さんは寺に入ってかの今朝拾った財布を持ってきて商人に渡した。

 「さあ、これはあんたの財布だ」

 これに商人は声を出して歓び、中をあけて金を調べた。そして金が少しも減っていないで、助かった!と叫んだ後、これは拾ってくれた人への礼金としての決まりだと言い、なんと財布の中の半分を屈さんにくれるという。

 これを聞いた屈さん、笑って答えた。

 「あんたはおかしいね。おいらが金目当てにあんたに財布を渡したのだったら、はじめから財布なんか知らないよといって金を全部もらってもよかったんだよ」

 「そういえばそうだが・・」

 「だろう?だからあんたの財布を拾ったからといって半分もらうわけにはいかないよ」

 「そうか?」

 「それにその金が半分なくなるとあんたの大事なこともできなくなるだろうに、そうだろう?」

 この屈さんの言葉に男が感激した。そこで屈さんが言う。

 「さあ、早く行ったほうがいいよ。おいらは物乞いでね。朝から何も食わずに腹すかしているんだよ。これから出かけてうまい物でももらってくるよ。さあ。落とした金が戻ってきたんだから、その金であんたの大事なことをやってきな」

 「待ってくれ。あんたはほんとにいい人だね。これを受け取ってくれないかい。たったの銀十両だが、これであんたの暮らしの足しにしてくれ」

 「いやいや」

 「そう言わないで、受け取ってくれ。さもないと私の良心が許さないよ。頼む!受け取ってくれ!頼む」

 商人がこう言うものだから、屈さんは、それはすまないねと、その銀十両を受け取った。これを見て商人は、ありがとうと屈さんに一礼し、走り足で来た道を戻っていった。

 さて、これを見送った屈さん、「ああ。腹が減った!ぺこぺこだよ。でも、いいことをしたから、たくさんお金が入ったな。え?銀十両なんて生まれて初めてだよ。うれしいね」といいながら、ニコニコ顔でいつものように楓橋鎮にやってきた。するとそこを流れる川に架けられた橋の側で、きれいな娘が父親に寄り添って立ち、シクシクと泣いているではなか。これに野次馬が、周りでわいわいがやがや。そこで屈さんがそこにいた物乞いの仲間にわけを聞いてみた。するとその仲間が言う。

 「あの子の親父さんが、曹という金貸しから借金してね。それにかなりの利子がついてしまい、とうとう返せなくなっちまったらしいんだ。そこで曹という金貸しは、きれいなあの娘さんに目をつけたらしく、金が期限どおり返せないなら、娘を金と引き換えに渡せと脅かしたらしいんだ」

 これを聞いた屈さんは、怒り出した。

 「どうせ、高利貸しのことだから、はじめからよくない企みがあったんだろうに」

 「そうかも知れねえな」

 「で、借りた金はいくらなんだい?」

 「何でも、銀五両ということだが、それが半月のうちに十両にふくれあがったということだよ」

 「へえ!?半月に二倍にかえ?!」

 「そうさ!二倍の十両だとよ。驚くじゃねえか。ひでえもんだな」

 そこで、屈さんはさっきの男からお礼としてもらった銀十両がふところに入っているのを思い出し、悪い足を引きずりながら人を掻き分け、その親子のいる前まで来て怒鳴った。

 「ひどい金貸しがいたもんだね!たったの五両が半月のうちに十両になるなんで、まったくその金貸しは人間じゃなくて悪魔だよ!!」

 野次馬たちは、足を引きずったみすぼらしい身なりの男が、中に入ってきて急に大声でこう言ったものだから驚いた。

 「何だ?何だ?この男は?」とみんなが騒いでいると、その曹という金貸しも近くにいたらしく、この屈さんの怒鳴り声を聞いて怒り出し、怖い顔して屈さんの側に来た。

 「おい!おい!なんだい、おまえは!?ははあ!お前は物乞いだな!一銭もないくせに、何をここでほざいている!」

 「なんだと!」

 これには屈さんも言い返す。

 「なにがなんだとだ!?そんなお前に金があるのかえ?なんだったら、お前、この親子の代わりに銀十両だしてみろ!ふん!」

 これを聞いた屈さん、金貸しをにらみながら、懐からかの銀十両を取り出して金貸しに渡し、「さあ、ここに銀十両ある。これでこの親父さんが金を借りたという証文を返せ!」という。

 これには金貸しだけでなく、周りの野次馬もびっくり。特に金貸しは、自分をにらんでいる物乞いが、この場で銀に十両を出すとは思ってもみなかったが、本当に出したのだから、金を貸したという証文をしぶしぶと懐からだして、屈さんに渡した。そこで屈さんは、その証文を娘の父に渡したので、親子は何度も屈さん礼をいい、その場を去って行った。また野次馬たちも、一件落着だとその場を離れていく。

 で、面白くないのが曹そうという金貸し。もともと金を取り戻すことが目当てではなく、娘がきれいだったので自分のものにしようと思ったのだが、なんと物乞いの屈さんが出てきたことから、この企みが泡と消えてしまったので、悔しくて仕方がない。

 そこで、その足で役所に行き、金を使って下役人を抱え込み、夜中に人の家に忍び込み盗みを働いたという罪で屈さんを縛り上げさせ、県令の前へ突き出させた。

 こちら県令、足を悪くしている屈さんが人の家の壁を乗り越え、抜き足差し足で盗みを働いたとはどうも信じられない。そこで、盗みを働いたことなど頑として認めない屈さんを一応牢獄に入れておき、詳しく調べることにした。

 実は、物乞いの屈さんがみんなのまえでかの親子を救うために銀十両を出したといううわさは、すでに町中に広がっていた。

 そして屈さんが牢へ入れられた翌日、屈さんに財布を返してもらったかの商人がことを済ませ、ふるさとに帰る途中に、ここ蘇州に立ち寄り、 ちょうど楓橋鎮の近くの宿に入った。そのとき、この町では一人の物乞いが銀十両で人を助けたあと、盗みを働いたとして牢に入れられたといううわさを耳にし た。

 「それは、あの正直者の物乞いにちがいない」と商人は、自分の恩人を救うため、腹ごしらえもせずに、さっそく役所にいって県令に会わしてくれと言う。普段なら県令に容易に会えるわけはないのだが、このことは町中のうわさとなっており、県令自身も屈さんが下手人だとは思えず、考え込んでいたところなので、この件について県令に是が非でも会いたいと申し出てきたものがいたのですぐに会った。そこで商人は、屈さんの顔かたちや身なりをきいたあと、屈さんのことを褒め始め、ことの仔細を県令に話した。

 これを聞いた県令、大いに感動し、さっそく牢から屈さんを出した。そして「話はあの商人から詳しく聞いた。お前も正直でいいやつじゃな」 といい、その場でうまいものを食べさせた。そして曹という金貸しを誣告の罪で牢にいれ、金で抱き込まれたかの下役人をも牢獄にぶち込みんだ。県令はまた、楓橋鎮一帯の米屋に毎日農家から買い上げた米の一部を行いのよい屈さんにくれてやるよう言いつけ、カゴで寺まで送らせたという。

 さて、屈さんはこのことがあってから、毎日米屋から米をもらえるようになり、それに米もかなり蓄えたので、それを売って金に換え、町の医者に自分の悪い足を見てもらった。こうして屈さんの足もよくなり、普通に歩けるようになったので、いつまでも物乞いではだめだと、残ったお金で商いを始めようとすると、彼の人柄を褒め、屈さんだったら大丈夫だと、多くの人が屈さんの商いを助けてくれる。こうして数年もたたないうちに、屈さんは金持ちになったので、嫁さんもらって子供ももうけ、幸せに暮らしたという。はい!!

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