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64年前の米国旗敬礼強制違憲判決と、現代日本における「君が代」伴奏強制合憲判決

どうせアメリカ様を見倣うなら、民主主義の基本からきちんと押さえてほしいもの。

「国旗敬礼の強制を認めれば,個人が自己の信念を述べる自由を保障するはずの憲法修正条項が,じつは自己が信じていないことを公権力が強制することを容認しているのだと,公言することになる」

第2次大戦中とは思えぬアメリカでのすばらしい判決が、戦後60年経った今、民主主義国家を標榜する我が国日本ではなぜ正反対の判決しか出せないのか。

やはりこの国には民主主義は根付いていない。
この国に民主主義は似つかわしくないのか。


日本のバーネット判決をとろう
〜「日の丸・君が代」強制反対事件


白井 劍

〈バーネット事件の連邦最高裁判決〉


 炭坑町マイナーズヴィルにすむゴヴィディス一家は,「エホヴァの証人」の信徒だった。一家は,国旗への敬礼は聖書によって禁じられていると信じていた。子どもたちが通う公立学校は,学校活動の一環として国旗敬礼を求めた。子どもたちはこれを拒否して退学処分を受けた。訴訟は,精神的自由を保障する憲法修正第1条をめぐって争われた。

 連邦最高裁は,1940年,国旗敬礼の強制は合憲と判断した。判決は,「国旗は国民統合のシンボルであり,国民統合こそ国家安全保障の基礎である。国民統合という土台のうえに初めて自由な社会が実現できる」などとのべている。

 判決以降,全米で,「エホヴァの証人」が迫害にあった。集会所が焼き討ちされ,集会が襲撃され,弁護士が殴打された。全米各所で国旗敬礼が厳格に執行され,あらたな法規が制定された。

 こうして,3年後の1943年,バーネット事件の連邦最高裁判決を迎える。やはり「エホヴァの証人」を信仰するバーネット一家のふたりの子どもが,国旗敬礼を拒否して退学処分になった事件だった。

 判決は,国旗敬礼の強制を違憲と判断した。わずか3年前の判決を完全に覆す衝撃的な判決だった。第2次大戦のまっただ中にもかかわらず,裁判所がその良心を示した判決だった。

 判決は言う。「国旗敬礼の強制を認めれば,個人が自己の信念を述べる自由を保障するはずの憲法修正条項が,じつは自己が信じていないことを公権力が強制することを容認しているのだと,公言することになる」,と。

〈君が代不伴奏事件の最高裁判決〉

 2007年2月27日,最高裁判所第3小法廷は,君が代の伴奏を強制する職務命令を合憲と判断した。事案は,1999年4月の公立小学校の入学式で,音楽専科の教員が,国歌斉唱時にピアノ伴奏せよとの職務命令に反して,ピアノを弾かなかった,というものだった。

 5名の裁判官のうち4名の多数意見は,《「君が代」が過去の日本のアジア侵略と結び付いており,これを公然と歌ったり,伴奏することはできない》等が,《上告人自身の歴史観ないし世界観及びこれに由来する社会生活上の信念等》だとまとめたうえで,こう述べている。

《学校の儀式的行事において「君が代」のピアノ伴奏をすべきでないとして本件入学式の国歌斉唱の際のピアノ伴奏を拒否することは,上告人にとっては,上記の歴史観ないし世界観に基づく一つの選択ではあろうが,一般的には,これと不可分に結び付くものということはできず,上告人に対して本件入学式の国歌斉唱の際にピアノ伴奏を求めることを内容とする本件職務命令が,直ちに上告人の有する上記の歴史観ないし世界観それ自体を否定するものと認めることはできない》

 そして,《本件職務命令は,憲法19条に反するとはいえない》と結論づけた。

 なんとも,奇妙奇天烈な理屈だ。少数者に向かって,「一般的に」という論法で,いいかえれば「あなた以外の多数の人たちは,そんなふうには考えないよ」という論法で,憲法19条の保障対象ではないと切り捨てた。

 ことは,国家のシンボルに対して個人がどういう態度をとるかという問題だ。国歌を伴奏するという特定の行為を強制することが,その個人にとって何を意味するのか,だ。そういう観点が,多数意見にはない。バーネット判決は言う。

《国家のシンボルは,宗教的シンボルが神学上の思想を伝えるように,政治的思想をしばしば伝えるものである。それぞれの人が,シンボルに込められた意味を見出すのであって,ある人にとって慰めと霊感を与えてくれるものが,別の人にとっては物笑いや軽蔑の対象であるのだ》と。さらに言う。《国旗敬礼と宣誓を強制することは,特定の信条と見解を是認させることになる》,と。こういう観点が,多数意見には見られないのだ。

 多数意見の本音は,那須弘平裁判長の補足意見で明らかになった。那須裁判長は言う。《思想・良心の自由を理由にして職務命令を拒否することを許していては,職場の秩序が保持できない》,と。臆面もなく人権より秩序を優先させる思考には,弁護士出身裁判官としての矜恃はないのかと言いたくなるが,それは措く。ここで指摘すべきは,多数意見にも補足意見にも,立憲主義の思想が欠けているということだ。

 かつて明治憲法の起草に実質関与した井上毅(いのうえこわし)は,「およそ立憲の政においては,君主は臣民の良心に干渉せず」とのべて,立憲主義の本質を示した。君主が民主に変わっても,ことの本質は変わらない。多数決原理で決まる議会や行政の意思に反しても,個人の人権が保護されるべきだという思想が,立憲主義のはずだ。そのことを担保するのが裁判所の役割のはずだ。そういう感覚が,この判決にはすっぽりと抜け落ちている。

〈最高裁判決を乗り越える足がかり〉

 杜撰だし,論理といえるほどのものは何もない。

 されど,最高裁判所の判決だ。その影響は,致命的ではないにしても,けっして小さくはない。

 でも,この判決を乗り越えていくための足がかりが2つある。

 その1つは,この判決の5人の裁判官のうちの1人,藤田宙靖裁判官による反対意見だ。

 反対意見は,《公務員が全体の奉仕者であることから,その基本的人権にそれなりの内在的制約が伴うこと自体は,いうまでもなくこれを否定することができないが,ただ,逆に,「全体の奉仕者」であるということからして当然に,公務員はその基本的人権につき如何なる制限をも甘受すべきである,といったレヴェルの一般論により,具体的なケースにおける権利制限の可否を決めることができないことも,また明らかである》と述べたうえで,《校長の職務命令が,公務員の基本的人権を制限するような内容のものであるとき,人権の重みよりもなお校長の指揮権行使の方が重要なのか,が問われなければならない》と的を射た指摘をしている。

 足がかりのもう1つは,2006年9月21日の東京地裁難波判決だ。401名の原告に,起立斉唱等の義務がないことの確認と処分の差し止めを認めた画期的判決だ。判決は,東京都教育委員会の通達とそれに基づく職務命令による国旗国歌の強制は,違憲違法だと判断した。判決は,述べている。《起立したくない教職員,斉唱したくない教職員,ピアノ伴奏したくない教職員に対し,懲戒処分をしてまで起立させ,斉唱等させることは,いわば,少数者の思想良心の自由を侵害し,行き過ぎた措置であると思料する》,と。

 わずか40秒の不起立だけが理由で,再雇用を取り消され,教壇を追われた教員たちも10名いる。その裁判は,昨年12月27日に結審し,判決期日の指定を待っている。その原告たちの会合で,老練の教師が,静かに,しかし決然と言った。「日本のバーネット判決をとろう」,と。

 最高裁判決を覆すことは,けっして無理ではないはずだ。ゴヴィディス判決が,わずか3年で乗り越えられて,バーネット判決に結実したように,君が代不伴奏事件の最高裁判決を短期間のうちに乗り越えていくことは,充分に可能なはずだ。

 そう考えながら,わたしも声に出して言ってみた。「日本のバーネット判決をとろう」,と。ほんとうに,そうできそうな気がしてきた。

「自由の風ネットワーク」より転載

at 11:31, もーちゃん, 日の丸・君が代問題

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